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33年の後に

久しぶりに嗅いだ匂いは雨上がりの夕暮れの空気のようだった。

33年前の 前作は朝露の香りだったように思う。

あの時代でさえもあのようなレベルの遊びをしていた層は少数派だったが、近い気分を味わっていると思っている若者は少なからずいたように思う。そうした人々、言い換えればあの本の注をガイドブックにするのではなく、縁があれば触れ合える事物だと思っていた者達だけが共感できた物語。今回の注とは全く異なる世界のものだった。

だが、彼の本をベストセラーに押し上げたのは、そのような人々ではなく、ちょっと無理して背を伸ばせば多少は手が届きそうな憧憬をもった人々だったと思っている。届かないセカイを僻むよりも手を伸ばす。それがバブルという時代だったし、当時の若者の気持ちだったように思う。

「マーマレードの朝」を越えてどこかヤンチャな世界から 「一日中空を見ていた」のような大人の遊びを描くようになった片岡義男や、 「私をスキーに連れて行って」のホイチョイプロダクションへの支持も同じ空気の中にあったと思っている。

だが 33年の時を経た今回の話にはそのような明るさはない。
憧憬を持って眺めたとしても前回よりも遥かに手の届かない世界の中にいる人々の甘くほろ苦い物語を描き出せるのは確かにこの人ならではだろう。しかし、当時憧憬を持った人々の多くがこの年月の中で華やかな性活を失っているにも関わらず、登場人物は物質的には手の届かない性活を続けている。しかも同年代で話題になるフィットネスの話も身近な病気や衰えの話もない。

共感できる人は前作よりも遥かに少なく、憧憬を持つ者はいないだろう。
前作は軽やかな欲望を纏う体は感じても顔は見えなかったことが夢を与えたが、今回は年を重ねた顔は思い浮かべられても肉体が見えてこない。90年初に書かれた物語よりもだ。

だからこそ、描かれる世界は社会に目を向けて、時の流れを描く物語となり、消え行く朝露を感じる世界ではなく、雨上がりの夕暮れの匂いがするのだろう。但し、それは決して終わりの景色ではない。処女作の漠然とした不安でもなく、サースティに漂っていた夕暮れ時にかかり始めたような下り坂を予感させる倦怠感や不安でもない。

それが雨が僅かに残る中で明日の晴天を期待できる夕焼けが広がる風景のような世界であることはとても嬉しい。漸くささやかなしかししっかりと前を向こうとする同時代の物語に見えたことが事を喜びつつ、次は掌編を期待したいと思う。

とはいえ、肉体的なシーンがなかった訳ではないのだが、そのキスシーンで想い描く体はフィフティではなくフォーティ。これは心象としての自己がそこに留まっている個人的な事由なのかもしれないのだが、ひょっとするとサースティの後にフォーティを書かなかった著者もどこかフォーティからフィフティへの流れが曖昧な感覚があるのではないかと思ってしまうのは私だけではないだろう。

そういえば、Web で見た六本木プラザは、何に使えば良いのか分からない謎の空間になっていた。当時望んだ未来だったのかもしれないし、まったく見当違いな変化かもしれないが、30年前の私に見せて感想を聞きたいものだ。

| 本・小説 | 22:56 | comments(0) | trackbacks(0) | pookmark |
穏やかではなかった年の終わりに
色々な事があった 1年でした。

今年は昨年か引き続いた「はやぶさ」関連から始まって、中東、震災、原発関連の紙の上に目を這わしたのだが、震災と原発はちょっと前に書いたのでそれ以外に関してつらつらと。
 
はやぶさ関連はこの2冊あればの川口淳一郎氏の 「はやぶさ、そうまでして君は」と的川泰宣氏の 「小惑星探査機はやぶさ物語」。この機に乗じてという中で JAXA の 「イカロス君の大航海」は子供向けながら内容は実に充実しており、しかも 360円の破格値。本当に良い仕事をしている。
 
宇宙繋がりでは堀江貴文氏の 「ホリエモンの宇宙論」 「儲けたいなら科学なんじゃないの?」 も充分楽しめた。
 
IT系では池田純一氏の「ウェブ×ソーシャル×アメリカ 」がアメリカの起源にまで遡った上での文化・文明論になっていて興味深かった。
 
理科書図鑑系で美しかったのは、 「世界で一番美しい人体図鑑」が紙の本ならではの造りが素晴らしく、、 「世界で一番美しい元素図鑑」も良いのだがもうすこしすっきりさせて欲しかった気もする。他に大作では「旅するウナギ―1億年の時空をこえて」「脱皮コレクション」「種子のデザイン 旅するかたち 」の2冊の佳作も美しく、 「ハダカデバネズミ―女王・兵隊・ふとん係」「ヒドラ――怪物?植物?動物!」で岩波科学ライブラリーの素晴らしさは今年も継続している事を確認できたことも嬉しい。ダグラス・アダムス氏の「これが見納め―― 絶滅危惧の生きものたち、最後の光景」の洒脱な文章と身も蓋もない世界も忘れがたい。
 
理科系の本としては何と言っても大河内直彦氏の「チェンジング・ブルー 気候変動の謎に迫る」 が私の中のベストだが、佳作として 「イカの心を探る」「ダンゴムシに心はあるのか」もあげておきたい。

写真繋がりでは咽るような臨場感がある本橋成一氏の 「屠場」はまさに渾身のドキュメントだった。
 
昨年からの紙の書物の関連ではエーコの 「もうすぐ絶滅するという紙の書物について 」 のスラップステイックさが愉しめた。マクルーハンの 「メディアはマッサージである 」の新装版も綺麗で楽しい。ウイキリークス関連はどれもまだという感じだったので来年に期待したい。

食に関連するものでは、明治の侍が洋食と格闘する熊田忠雄氏の「拙者は食えん!」「ワインと修道院」が歴史と建築案内も含めてとても素晴らしい。塩野七生氏の 「十字軍物語」等と合わせて読んでも楽しめるだろう。 歴史物といえばジョーゼフ・ボーキン氏の「巨悪の同盟 ヒトラーとドイツ巨大企業の罪と罰」が読み応えがあった。国内では竹内洋氏の「革新幻想の戦後史」が意欲作だったと思う。革新といえば親子の対話として纏められた 「お前の1960年代を、死ぬ前にしゃべっとけ! 」の試みも成功していたと思う。
 
サブカルチャー関連の分野では、伸井太一 「ニセドイツ〈1〉 ≒東ドイツ製工業品 」「オタ中国人の憂鬱 怒れる中国人を脱力させる日本の萌え力」のセンスの良さと、 「「ワンピース世代」の反乱、「ガンダム世代」の憂鬱 」 あたりか。大震災での活躍によって光があたった自衛隊の便乗本も随分と出たがそれに萌えを重ねた本は最低だった。便乗を重ねる事によって滲み出る腐臭が堪らない。それに比べて堀田 純司氏の 「僕とツンデレとハイデガー」は、スピノザからハイデッガーに至る哲学の系譜を今に合わせて簡潔に取り込んだラノベ仕立ての実に不思議な魅力のある作品となっている。必要なのは書き手の必然なのだろう。

評伝では、何をおいても若松英輔が巨星の思想を再構築した 「井筒俊彦 叡智の哲学」の読み応えは格別だった。

つらつら思い出していると個人的には今年の最大の収穫は、佐々木中氏の 「切りとれ、あの祈る手を」と出会い、元気を貰った事だと思い当たる。 「野戦と永遠」 「足ふみ留めて」 「この日々を歌い交わす」と色々と書きたいことがあるのだが、それは来年アナレクタ3を読んでから纏めてとしたい。

今年もまた数多くの本の上を目で這って愉しい思いもしたのだが、来年はもっと愉しく嬉しい話題の本と出会えることを祈りつつ、良いお年を。
| 本・その他 | 18:34 | comments(0) | trackbacks(0) | pookmark |
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